2016年、グラミー賞ベスト・コンテンポラリー・インストゥルメンタル受賞!今や、世界中のボーカリストが彼らをバックに歌うことを望み、世界中の演奏家が彼らとのジャムを熱望するバンド、スナーキー・パピーが単独公演を行う。2014年にはレイラ・ハサウェイとのコラボ曲<Something>でグラミー賞のベストR&Bパフォーマンス、そして、2016年には『Sylva!』で再びグラミーを受賞。名実ともに世界最高の即興音楽集団となったと言っていいだろう。
作編曲家でプロデューサー、そしてベーシストとしてもバンドを牽引するマイケル・リーグを中心に総勢40名を超えるメンバーが在籍し、その中から10人前後の精鋭がステージに上がるというスタイルで、生演奏一発勝負でオリジナル曲をグルーヴさせる圧巻の演奏は2015年のブルーノート・ジャズ・フェスティバルでも観客を驚かせた。
今回の来日に同行したメンバーも話題の最新作『Family Dinner - Volume 2』にも名を連ねていた主要メンバーたちが中心だ。彼らはスナーキー・パピー以外の活動でも引っ張りだこで、ケンドリック・ラマー、エリカ·バドゥ、マーカス·ミラー、ジャスティン·ティンバーレイク、カーク·フランクリン、ロイ·ハーグローヴ、スヌープ·ドッグ、ジョン・メイヤーなどなど、トップミュージシャンのレコーディングやライブなどでも活躍している。
最新作『Family Dinner - Volume 2』は、デヴィッド・クロスビーやサリフ・ケイタなどの重鎮から、ベッカ・スティーブンス、クリス・ターナーといった新世代ジャズのキーマン、ローラ・マヴーラ、ノウワーやジェイコブ・コリア―などの話題のミュージシャンなど、様々なシンガーとの、振れ幅の大きな様々なジャンルのライブレコーディング・セッションの中で、彼らのさらに磨きがかかった強烈なポリリズムや、多彩なテクスチャーが聴ける最高傑作だ。ここで生み出されるがっちり噛み合ったアンサンブルや音響空間はとてもライブレコーディングで編集無しで作ったとは思えないものだ。メンバーそれぞれが明らかにレベルアップし、バンド全体が今、急速な進化の真っただ中にいることを鮮やかに見せつけたと言ってもいいだろう。そんな勢いに乗ったこのタイミングでのスナーキー・パピーを日本で見れることに僕は非常に興奮している。
柳樂光隆
スナーキー・パピーのリーダーとして40人を超える個性的なメンバーをまとめあげながら、その多くの楽曲を作編曲し、さらにはスナーキー・パピーやそのメンバーによるプロジェクトなどを自身が運営するGroundUpレーベルからリリースしていたのがバンドの創設者であり、ベーシストのマイケル・リーグだ。マイケルはスナーキー・パピーを世界最高のライブバンドに育て上げ、グラミー受賞にまで導いたリーダーであるだけでなく、ノーステキサス大学でジャズを学び、ダラスのゴスペルシーンで腕を磨いた卓越した技術を併せ持つ彼はエレクトリックベースの音色をエフェクトで大胆に変える演奏スタイルや、あらゆるジャンルの要素がブレンドされたグル―ヴィーな楽曲を生み出す作曲スタイルまでいち演奏家としても実に個性的だ。彼のタクトがスナーキー・パピーを導く。
スナーキー・パピーのサウンドの中でも特に独特のサウンドで異彩を放つ鍵盤奏者がいる。それがビル・ローレンスだ。UK出身での彼は、まるでテクノを生演奏しているようなスタイルで、マイケル・リーグのエフェクティブなベースと共にバンドにコズミックなサウンドを提供している。そんな彼のソロアルバムがテクノとポストクラシカルとジャズの狭間を行くようなこれまでに聞いたことのない美しい作品だったことは彼がスナーキー・パピーの個性をどれだけ担っているかを証明しているようでもあった。ワープやニンジャチューンのエレクトロニックミュージックからニルス・フラームまで幅広い影響を公言する彼の演奏は必見だ。
スナーキー・パピー<Lingus (We Like It Here)>のPVでのコーリー・ヘンリーのキーボード・ソロはグラミー賞を受賞したレイラ・ハザウェイとの<Something>と甲乙付けがたい圧倒的なパフォーマンスだった。そのあまりのすごさに隣で演奏していたショーン・マーティンが手で顔を覆い、観客は息をのんだ。コーリー・ヘンリーが今、世界で最もエキサイティングなソロをとれる鍵盤奏者であることを証明した映像だった。ゴスペル出身の彼はゴスペルシーンだけでなく、ケニー・ギャレット、マーカス・ミラーなどのジャズの大物をはじめ、ヒップホップやR&Bの世界でも起用され始めている。誰もが認める次世代のスター候補の筆頭だ。
スナーキー・パピーを支える二人のレギュラードラマーの一人であり、同時にCo-Producerとしてもバンドに貢献する中心人物がロバート・スパット・シーライトだ。ゴスペル出身であらゆるジャンルを自在に叩く彼は、スヌープ・ドッグのバックのオールスター・バンドでサンダーキャットやカマシ・ワシントン、テラス・マーティンと共に演奏していたことでも知られ、近年ではケンドリック・ラマーの名盤『To Pimp A Butterfly』でも起用されていたジャズとヒップホップを繋ぐキーパーソンの一人でもある。自身のユニット、ゴースト・ノート『Fortified』ではジャズからヒップホップ、ビートミュージックをはじめ、世界中のあらゆるビートを叩き分ける器用さをも見せつけてくれた。
スナーキー・パピーの鍵盤奏者にして作編曲にも関わるのがショーン・マーティンだ。彼もまたゴスペルを出自に持ち、グルーヴミュージックを得意としているが、コンポーザーとして、コンテンポラリーゴスペルのカリスマ、カーク・フランクリンを支えているほか、エリカ・バドゥ『ママズ・ガン』にも関わっていたという陰の実力者。自身のソロ作『Seven Summers』でも、ソウル/ファンク/ネオソウル/ゴスペル/R&Bなど、あらゆるUSブラックミュージックをさらりと横断してみせるセンスはスナーキー・パピーに不可欠だ。
コーリー・ヘンリーの超絶キーボードソロがさく裂した<Lingus (We Like It Here)>で、コーリーをすさまじいリズムで煽り続けたのがローレル・ルイスだ。彼もまたゴスペル出身でパワフルなドラムとテクニカルな演奏が特徴で、マイケル・ブレッカーから、デイブ・ホランド、デイブ・リーブマンなどと共演している。これまでクラブジャズ的な四つ打ち系リズムのサウンドを志向していたボーカリスのエリザベス・シェパードがポリリズミックで変拍子をも持ち込んだ傑作『The Signal』では、今作で初めて起用されたリオネール・ルエケのギターとローレル・ルイスのドラムが作品の鍵になっていたのも記憶に新しい。
コーリー・ヘンリー、ビル・ローレンス、ショーン・マーティンらと共に鍵盤奏者の一角を占めるのがジャズティン・スタントンだ。元々トランぺッターとしてスナーキー・パピーに参加した彼は、今でも鍵盤と並行してトランペットも演奏する異色のメンバーでもある。『Family Dinner volume one』でフィーチャーされていたマグダ・ヤニクゥ率いるバンダ・マグダでは、世界中のリズムをポップにグルーヴさせるワールドミュージック的なサウンド(の難曲)をも軽々と奏でるリズムマスターでもある。
「マリやペルー、ブラジル、キューバ、プエルトリコのポリリズムが使われた曲が大好きなんだ。」と語るリズム狂であるマイケル・リーグが率いるスナーキー・パピーに欠かせないのが、ドラムと並び、そんな色鮮やかで複雑なリズムを叩くことができるパーカッショニストの存在だ。その役割を担うのがアルゼンチン出身のパーカッショニスト、マルセロ・ウォロスキ。リチャード・ボナから、グロリア・エステファン、ルー・リードとも共演する彼は世界中のリズムを叩き分けながら、訛りを自在にコントロールし、あらゆるリズムをタイトでソリッドな現代的なグルーヴに置き換える。ロバート・スパット・シーライトとのユニット、ゴースト・ノート『Fortified』ではそんな彼の超絶なリズムを堪能することができる。
文:柳樂光隆