リンゴの80年代は主演映画『おかしなおかしな石器人』の撮影(2月)で幕を開けたが、それはリンゴにとっての新たな人生の幕開けともなった。リンゴは、映画での共演をきっかけに交際を始めたバーバラ・バックとドライブ中に交通事故に遭い、車は大破するが奇跡的な軽症で済む。その出来事に運命的なものを感じたリンゴは、翌81年4月、40歳の時にバーバラと再婚。式にはリンゴの母エルシーと義父ハリーのほか、ポール夫妻、ジョージ夫妻も祝福に駆けつけ、ポール、ジョージ、ニルソンなどとセッションも楽しんだという。
ニュー・アルバムのレコーディングは80年7月に開始され、ポール、ジョージの曲に加え、音楽活動を再開したジョンからも「ライフ・ビギンズ・アット・40」というリンゴにうってつけの曲が提供された。だが、ジョンが12月8日に凶弾に倒れ、収録は見合わされてしまう。リンゴはジョンの死の翌日にバーバラとともにニューヨークのヨーコのもとを訪れ、ジョンの死を悼んだ。
アルバムは81年に『バラの香りを』のタイトルで発売され、ジョージ作のシングル「ラック・マイ・ブレイン」が久しぶりにチャート・インを果たす。ジョージによるジョンへの追悼曲「過ぎ去りし日々」(81年)では、リンゴの「アイム・ザ・グレーテスト」(73年)以来となる元ビートルズのメンバー3人の共演が実現したほか、リンゴもポールの主演映画『ヤア! ブロード・ストリート』に出演(82年11月~83年7月撮影)するなど、“ビートルズ再燃ブーム”がこの時期ふたたび起こった。
83年以降は、ビーチ・ボーイズのコンサート(84年7月)へのゲスト出演や、映画『レゲエde ゲリラ』(85年1月公開)でのジョージ、エリック・クラプトンなどとの共演、カール・パーキンスのデビュー30周年記念テレビ特別番組『ブルー・スウェード・シューズ』(85年10月)と『プリンシズ・トラスト・バースデー・バーティ』(87年6月)への参加のほかに、みずからパーソナリティを務めたラジオ番組『リンゴのイエロー・サブマリン』(83年)への出演や、テレビ・アニメ『きかんしゃトーマス』のナレーション(84年・86年)、テレビ・ドラマ『不思議の国のアリス』への「にせウミガメ」役での出演(85年)など、子供向けシリーズへの参加が目立った。
そうしたリンゴの活動と連動するかのように、85年9月には初孫(長男ザックの娘)が誕生するという明るい話題もあった。しかし、母エルシーが他界した87年2月にレコーディングが開始されたニュー・アルバムのセッションでリンゴはまともに演奏ができず、アルコール依存症を患ってしまったのだ。その結果、リンゴはバーバラとともに88年10月から11月にかけてアルコール依存症克服のための集中治療を受けることになった。
そして、89年。酒もタバコもやめ、ポールとジョージの勧めでベジタリアンになり、心身ともに立ち直ったリンゴは、2月にトム・ペティのプロモーション・ヴィデオに出演し、3月には「アクト・ナチュラリー」のリメイク・ヴァージョンを作者のバック・オーウェンスとレコーディング。さらに6月にはボブ・ディランのコンサートにゲスト出演するなど、音楽活動再開に向けての足固めを始める。続いて6月20日にニューヨークで記者会見を行ない、自身初のソロ・ツアーを公表した。こうして、リンゴ自身が初めて結成したバンド、リンゴ・スター&ヒズ・オール・スター・バンドが始動したのである。
89年7月23日、オール・スター・バンドを引き連れて、ビートルズ時代以来、初の本格的なワールド・ツアーに出たリンゴ。オール・スター・バンドのメンバーも各自のヒット曲を歌うというスタイルを取ったこのツアーは大きな反響を呼んだ。それ以降、2013年までの25年間のうちの15年間、2年に1度以上のペースでオール・スター・バンドでのツアー活動を継続、特にこの4年間は毎年ツアーを行なうなど、意欲的な動きをみせている。
オール・スター・バンドのメンバーは固定されず、2013年の現在までに11期を数え、その間にオール・スター・バンドによるライヴ・アルバムはすでに12枚発表されている。また、第1期から第6期まで(89年~2000年)は60年代から70年代にかけて活躍したミュージシャンがリンゴのバックを固めていたが、2001年、リンゴが60歳を迎えた第7期のツアー以降は、80年代に活躍したミュージシャンが多く起用されるようになった。89年10月~11月(第1期)と95年6月(第3期)には日本公演も実現し、96年には日本の宝酒造「すりおろしりんご」のCMにも出演した。
オール・スター・バンドでのコンサート活動で現役ミュージシャンとしての感覚を取り戻したリンゴは、その間にビートルズの“新曲”「フリー・アズ・ア・バード」(94年2月~3月)と「リアル・ラヴ」(95年2月)で“ビートルズとしての活動”も行なったほか、ジェフ・リン、ナック、ジェリーフィッシュなど“ビートルズ・フォロワー”がバックを固めた、ビートルズ・フレーバーあふれる9年ぶりのアルバム『タイム・テイクス・タイム』(92年)や、『ヴァーティカル・マン~リンゴズ・リターン』(98年)、『リンゴ・ラマ』(2003年)、『想い出のリヴァプール』(2008年)、『ワイ・ノット』(2010年)など8枚のオリジナル・アルバムを発表。歌詞に自身の半生を盛り込んだ「想い出のリヴァプール」(2008年)や「ジ・アザー・サイド・オブ・リヴァプール」(2010年)、「イン・リヴァープール」(2012年)など故郷リヴァプールへの想いを綴った曲、2001年11月29日に他界したジョージへの追悼曲「ネヴァー・ウィズアウト・ユー」(2003年)や「過ぎ去りし想い出」(2008年)、「ピース・ドリーム」(2010年)などビートルズやジョン、ポール、ジョージへの想いを込めた曲、さらに“リンゴのテーマ”となった「ピース&ラヴ」を歌詞に盛り込んだメッセージ・ソングなど、内省的な作品をコンスタントに発表している。
70歳を超えてさらに精力的な活動を続けるリンゴ&ヒズ・オール・スター・バンドの18年ぶり3度目となる日本公演。絶妙なドラミングと味わい深いヴォーカルが堪能できるピースフルなステージが今から楽しみだ。
文:藤本国彦